神奈川県と地域建設企業

 1990年代から神奈川県や県内市町村に関わる中で、疑問に思うことが幾つかありました。その一つに「地元の建設企業数が少なすぎるのではないか」があります。神奈川県外の地方都市で仕事をする度にその思いを強くしました。あれから約30年が経ちました。神奈川県の人口は大阪府を抜いて2番目に、横浜のみなとみらい21地区、川崎の武蔵小杉などの大規模な開発も進み、土地利用の転換も進んでいるように見えます。私は既に第一線を退いており、詳細はわからなくなりましたが、こうした事業を担うはずの建設企業は潤い、地域の建設企業は増えたのでしょうか?

 来年は、いよいよ「2025年問題」を迎えます。団塊の世代が大量退職し、これからは生産労働人口が右肩下がりに減少することが予想されています。様々なシンクタンクのレポートにおいても建設産業にかかわらず厳しい状況が示されています。もしかすると、私が疑問に感じていた、神奈川県における「地域の建設企業」の少なさが、具体的に姿を現すかもしれません。

 ことし1月1日に発生した能登半島地震では、震災復旧や復興の遅延が話題になっています。財務省の予算措置の仕方が問題点の一つに挙げられていますが、問題の本質は「地域の建設企業」の不在ではないでしょうか?大雑把に建設産業と一括りに捉えられがちですが、建設業の中で「地域の建設企業」は地震や台風などの災害対応を担える唯一の存在です。地域維持や地域経済の振興(地方創生)についても重要な役割を果たしています。この能力が日本で失われ始めたことが、能登半島地震で可視化された、そんなことを危惧しました。

 そんな疑念を持つ中で神奈川県の状況を調べました。データは「建設工事受注動態統計調査 建設工事施工統計調査」の「(遡及集計)業種別、業者所在都道府県別-就業者数 」で、都道府県別に建設業の就業者数を分けました。2023年度の結果は以下のとおりです。

都道府県就業者順位都道府県就業者順位
東京都1,052,8591鹿児島県52,98824
大阪府431,8152栃木県52,04225
愛知県248,3103三重県50,94326
神奈川県210,7234富山県49,70927
北海道207,7445愛媛県49,30028
福岡県194,1146石川県48,29929
埼玉県170,4817大分県46,87630
兵庫県143,8198沖縄県46,78231
千葉県122,4049岩手県46,51632
新潟県111,35910長崎県44,04433
広島県106,59911山形県43,30634
静岡県100,12012福井県38,91035
宮城県92,02413秋田県38,09036
茨城県79,06614宮崎県37,94937
福島県74,66915滋賀県36,77038
岐阜県71,91816香川県35,66339
長野県71,21217和歌山県27,44040
京都府68,51018佐賀県26,96141
熊本県63,25219島根県26,52342
岡山県62,51820徳島県24,88643
群馬県61,91221高知県24,19544
山口県61,42622山梨県23,82545
青森県54,92723鳥取県23,20046
奈良県23,18247

 神奈川県は47都道府県中4番目です。これまで行政の職員と話していても、少ないと感じている人がいなかった理由がわかります。この数値だけ見れば、少なくはないのは確かです。しかしこの数値には比較対照する数値がありません。そこで都道府県別の人口を比較対照する数値にします。データは「人口推計 各年10月1日現は、在人口 令和2年(2020年)国勢調査基準 統計表」から抜き出しました。 以下のとおりです。

都道府県総人口(千人)順位都道府県総人口(千人)順位
東京都14,0101沖縄県1,46825
神奈川県9,2362滋賀県1,41126
大阪府8,8063山口県1,32827
愛知県7,5174愛媛県1,32128
埼玉県7,3405奈良県1,31529
千葉県6,2756長崎県1,29730
兵庫県5,4327青森県1,22131
北海道5,1838岩手県1,19632
福岡県5,1249石川県1,12533
静岡県3,60810大分県1,11434
茨城県2,85211宮崎県1,06135
広島県2,78012山形県1,05536
京都府2,56113富山県1,02537
宮城県2,29014秋田県94538
新潟県2,17715香川県94239
長野県2,03316和歌山県91440
岐阜県1,96117佐賀県80641
群馬県1,92718山梨県80542
栃木県1,92119福井県76043
岡山県1,87620徳島県71244
福島県1,81221高知県68445
三重県1,75622島根県66546
熊本県1,72823鳥取県54947
鹿児島県1,57624全国125,502

 人口は47都道府県中2番目です。これはよく見る数値です。ただし人口が多いことは地域に経済的な効果を生み出す一方、地震や台風、洪水、など大規模な災害が発生した時、救い出す対象者数も多いということです。特に倒れた家や電柱を退けたり、壊れた道路を通れるようにする「道路啓開」は県民の生命を守るために欠くことができませんし、道路啓開の円滑・適正な遂行には、「地域の建設企業」が不可欠です。そこで「地域の建設企業」の就業者と限りませんが、実態に近い数値として各都道府県における建設業の就業者数と各都道府県の人口を重ね合わせました。それが以下の表です。

都道府県就業者順位総人口順位就業者/人口順位
東京都1,052,859114,010,00017.5151
福井県38,91035760,000435.1202
新潟県111,359102,177,000155.1153
大阪府431,81528,806,00034.9044
富山県49,709271,025,000374.8505
山口県61,426221,328,000274.6256
青森県54,927231,221,000314.4997
石川県48,299291,125,000334.2938
鳥取県23,20046549,000474.2269
大分県46,876301,114,000344.20810
福島県74,669151,812,000214.12111
山形県43,306341,055,000364.10512
秋田県38,09036945,000384.03113
宮城県92,024132,290,000144.01914
北海道207,74455,183,00084.00815
島根県26,52342665,000463.98816
岩手県46,516321,196,000323.88917
広島県106,599112,780,000123.83418
福岡県194,11465,124,00093.78819
香川県35,66339942,000393.78620
愛媛県49,300281,321,000283.73221
岐阜県71,918161,961,000173.66722
熊本県63,252191,728,000233.66023
宮崎県37,949371,061,000353.57724
高知県24,19544684,000453.53725
長野県71,212172,033,000163.50326
徳島県24,88643712,000443.49527
長崎県44,044331,297,000303.39628
鹿児島県52,988241,576,000243.36229
佐賀県26,96141806,000413.34530
岡山県62,518201,876,000203.33331
愛知県248,31037,517,00043.30332
群馬県61,912211,927,000183.21333
沖縄県46,782311,468,000253.18734
和歌山県27,44040914,000403.00235
山梨県23,82545805,000422.96036
三重県50,943261,756,000222.90137
静岡県100,120123,608,000102.77538
茨城県79,066142,852,000112.77239
栃木県52,042251,921,000192.70940
京都府68,510182,561,000132.67541
兵庫県143,81985,432,00072.64842
滋賀県36,770381,411,000262.60643
埼玉県170,48177,340,00052.32344
神奈川県210,72349,236,00022.28245
千葉県122,40496,275,00061.95146
奈良県23,182471,315,000291.76347

 神奈川県の数値を見つけるのに苦労したかもしれません。都道府県別で、建設業の就業者数は4番目、人口は2番目に多いので、神奈川県内は人に溢れているような印象を持たれていたかもしれません。ただ結果は45番目です。47都道府県中、下から3番目です。「地域の建設企業」が少ないと感じていた私の印象には合致しました。普通に考えて人口が多ければ、日常生活に伴う経済活動が活発になり、官民の投資が促進されるはずなのですが、建設業に限っては、そんな姿になっていません。神奈川県に近い、埼玉県と千葉県も同じ傾向でした。

 ただし、石川県は上から8番目でした。半島という地理的に不利な条件はあるものの、県全体の人口と就業者数で見れば神奈川県よりも良い環境です。震災復旧・復興の遅延に対し私が持っていた危惧は、単なる思い過ごしだったのでしょうか?逆に、神奈川県よりも復旧・復興の条件が整っていた石川県ですら、現在の厳しい状況があるのだ考えることもできます。今回示した都道府県内における建設業の就業者数と「道路啓開を行う力」はイコールではありません。そこで次回は別の角度からデータを探し、神奈川県における「地域の建設企業」の状況を把握していけるようにしたいと思います。

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