「建築士」を職能とする方々は、「設計者の社会的地位向上」というテーマへの議論は積極的です。他職種は活発に「賃金」の議論をしていますが、建築設計者の目は社会的地位向上の方向を向いているように感じます。確かに「建築士」の社会的地位は議論の余地があると思いますし、「独占業務を持つ士業」という一般の職種とは別格の職種だと私は思っています。ただ私は、社会的地位の中には賃金も含まれると思うのです。ある部分で、この賃金水準が低すぎるように思えるからです。
以下は、厚生労働省の「令和7年賃金構造基本統計調査」から、職種小分類「建築技術者」(産業計・企業規模10人以上、労働者数373,320人)を抜き出して、他の士業などと比べた表です。
| 職種 | 推定年収(万円) | 実態時給(円) | 超過労働(時間/月) |
| 法務従事者 (弁護士等) | 964 | 3,858 | 4時間 |
| 公認会計士・税理士 | 766 | 3,639 | 7時間 |
| 【建築技術者】 | 621 | 2,493 | 17時間(技術系最多) |
| 土木技術者 | 584 | 2,402 | 12時間 |
| 測量技術者 | 521 | 2,119 | 8時間 |
法務従事者や、公認会計士・税理士という他の「士業」と比べると低い水準であり、超過労働も多いことが読み取れます。ただ、この区分は建築士・設計監理技術者に加え、建築現場監督・施工管理技術者を含んでいます。正確な数字ではありません。設計者のみを抽出した公的賃金統計は現存せず、2019年の職種区分見直しで「一級建築士」区分が廃止されて以降、建築士単独の賃金は国の統計から把握できないそうです。
そこで、建築設計者の給与を建築技術者(施工関係)と分けて評価するため、「経済センサス活動調査」をベースにします。これは独自分類により法律事務所、公認会計士事務所、税理士事務所、建築設計業、測量業が区分されています。経済センサス(2021年)の第6表(全国・総数)を分類にすると、以下の表になります。
| 産業 | 企業数 | 従業者数 | 1人当たり 給与総額 | 1人当たり 純付加価値 |
| 公認会計士事務所 | 2,445 | 42,892 | 632.5万 | 803.1万 |
| 特許事務所 | 1,162 | 10,370 | 569.1万 | — |
| 建築設計業 | 32,795 | 275,553 | 454.0万 | 630.3万 |
| 測量業 | 7,199 | 64,620 | 341.9万 | 481.6万 |
| 税理士事務所 | 27,164 | 151,963 | 335.5万 | 554.2万 |
| 法律事務所 | 10,151 | 47,545 | 311.5万 | 644.4万 |
この結果を見ると、建築設計業は、税理士事務所、法律事務所を上回ります。先ほどの集計結果から逆転します。しかし、この統計数値にも単純比較には問題があるようです。第6表を経営組織別に開くと法律事務所、公認会計事務所、税理士事務所には「会社企業」の行が存在せず、弁護士法人などの会社以外の法人に分類されます。個人経営の比率が高く、法律事務所は91%、税理士事務所は87%が個人経営であり、雇っている人に払った賃金だけが経済センサスの数値になります。事業者本人の所得は含まれません。
一方の建築設計事務所は、91%が会社企業です。役員報酬を加えて計算されている比率が圧倒的に高くなります。そこで経済センサス(同一表、同一年、同一組織形態)で、個人経営だけを抜き出して、並べ直すこと以下の表のようになります。
| 産業(個人経営のみ) | 企業数 | 1事務所あたり人数 | 従業者1人あたり給与総額 | 事業主を除く1人当たり給与 | 1人当たりの純付加価値額 |
| 法律事務所 | 9,229 | 3.67人 | 192.6万 | 264.9万 | 595.1万 |
| 公認会計士 | 2,248 | 3.94人 | 268.3万 | 359.5万 | 590.6万 |
| 税理士 | 23,716 | 3.92人 | 227.2万 | 304.9万 | 518.3万 |
| 測量業 | 744 | 2.39人 | 113.1万 | 194.8万 | 308.4万 |
| 建築設計業 | 10,932 | 1.65人 | 57.3万 | 146.1万 | 240.5万 |
個人経営のみに限定すると最低です。それも他の「士業」と半分以下にまで低い数値になりました。どの表も正確に建築設計を表しているわけではありません。
ただし、「1人当たりの純付加価値額」を見ると深刻度は増します。建築設計業の個人事務所は240.5万円で、法律事務所595.1万円の40%、税理士事務所518.3万円の46%です。1事務所あたりに直すと、建築設計業は約396万円、法律事務所は約2,181万円、税理士事務所は約2,032万円、測量業は約737万円。個人設計事務所が1年間に生み出す価値は、個人法律事務所の5分の1以下です。
これは個人事務所の比較でしかありません。法律事務所は企業数の91%、税理士事務所は87%が個人経営なので個人経営がその業界の主流ですが、建築設計業では企業数の33%・従業者の6.5%にとどまります。個人の建築設計事務所の3割以上がこれだけ低いと、前記した法人部門を合算して数値を加えたとしても、「士業」の中では最低のレベルにあるように見えます。
【続く】


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