前回、全国の都道府県・指定都市の委託業務に関連した落札率や、最低制限価格等(調査基準価格を含む)の導入状況を見ました。このうち落札率の変動は最低制限価格率等が大きく影響するのですが、国土交通省の調査では、設定率までは明らかになっていませんでした。
私の感覚だと神奈川県や横浜市、川崎市の落札率は、建築工事95%前後、建築設計80%前後だという印象があります。つまり例えばA庁舎建築工事などで、同じ建築工事に関わったとしても設計者は発注者が考えた金額より15%も安い金額で受注が認められているということです。建築工事の設計は当然、「建築設計」の建築士が行います。発注者と協議して設計図面をつくり、建築工事の工事費を算出しているにもかかわらず15%も低いということは、発注者の意図を反映して、建築基準法などの法律に準拠しながら、要求に応える建築物を要求の範囲内の金額内に納めることを考えた人よりも、図面に書いてあるとおり施工する人の方が優遇されているような不公平感を感じてしまうのです。
そこで最低制限価格の設定率について、日頃から見ていて良く知っているということもありますが、最低制限価格を公表していた記憶がある横浜市を調べることにしました。
横浜市は大規模施設の設計者選定に公募型プロポーザル方式を採用しています。これは最終的に随意契約になります。最近は小学校の設計委託が増えているので、全体として落札率は高くなるはずです。しかし国土交通省の調査が示したのは「競争入札平均落札率」でした。プロポーザル方式などの随意契約を除いています。そうすると委託業務の競争入札に限られるので、競争入札は安くなるイメージだったのですが、調査結果では20指定都市の中で、どちらかというと高い団体でした。少なくとも数年前まで横浜市は電子入札だけでなく、紙入札も残っていました。各局の総務部に台帳が置いてあり、それを閲覧するシステムで、これは電子入札の一覧に載ってきません。こうした環境が影響している可能性もあるかもしれないと考えて、横浜市の電子入札の状況を詳細に調べることにしました。
まず、国土交通省の調査で横浜市の平均落札率は、工事92.6%、建築コンサルタント88.2%、土木コンサルタント85.1%、測量業務84.6%、調査業務88.0%です。これが前提の数値であり、この数値は2024(令和6)年度の競争入札実績です。落札率=「契約1件ごとの契約額÷予定価格」の単純平均で、競争入札に限定しています。AIへの依頼内容は、横浜市電子契約システム「ヨコハマ・入札のとびら」に掲載されているデータです。業務委託は、年度を「令和6年度」、入札方式は「一般競争入札(WTO)、一般競争入札(WTOを除く)、指名競争(公募型)、指名競争」で見積合わせと単独随意契約を除きました。資格の区分は「設計測量」、種目は「建築設計(監理含む)」です。落札金額と予定価格から最低制限価格率の算出もお願いしました。
この結果、以下の表のとおりです(金額は全て税別)。件数は54件が抽出されました。これは私に想定より少ないのです。100件はあると思っていました。驚いたのは予想に反して平均落札率は89.4%に上がりました。国土交通省の調査結果と異なりますが、局ごとの平均落札率を集計した場合、平均落札率は88.1%になったので、ほぼ一致します。変化の割合が大きいですけど、大組織ですから各局ごとに調べて平均値を回答したんでしょう。
最低制限価格の設定率は77.49%です。やはり低い。応札者数は4.9者で、これもイメージより少ない。しかし、最低制限価格が77.49%に抑えられているにも関わらず、89.4%まで落札率が上がるのは不思議です。

局ごとに最低制限価格率の平均値を見ると、教育委員会が最も低い76.74%でした。案件数が最多の建築局は次に低い平均値で、全体を押し下げています。最低平均値(教育委員会)と最高平均値(道路局)の差は3.6ポイントしかありません。

一般競争入札と指名競争入札の差異を見ると、一般競争入札の方が落札率は下がるのですが、人気はありません。応札業者数が半減しています。最近の一般競争入札は昔のような競争促進策として機能しないのかもしれません。そして昔ながらの「行政から指名されたら入札参加を断れない」という応札者の心情は今も残り、競争を促すのかもしれません。

AIの分析ですと、「横浜市における最低制限価格は平均 77.49% であり、約65%の案件が 76.5%~77.0% の極めて狭い範囲に密集」しており、これは「直接人件費+直接経費等を基準とした標準算定方式の下限基準を忠実に採用していることを示しています」だそうです。そして「学校給食室や複雑な拠点解体(新吉田小84.68%、鶴見拠点80.67%)など、技術難度や現地制約が高い案件では設定率が80%超まで引き上げられています」が、「第1回入札で落札に至らず、第2回・第3回入札に進む案件が全体の約31.5%(17件)存在し、入札競争の中で予定価格上限付近(98%〜100%)に収束していく傾向が見られます」としています。
次に建築工事も確認する必要があると考えました。国土交通省の調査結果は土木工事などを含んでいると想定できます。建築工事の実態を示せないと思うので、建築工事の詳細調査をAIに依頼しました。AIが導き出した総件数は123件です。横浜市の「入札のとびら」で確認すると、162件が表示されますが、不調36件、随意契約1件、2025年(令和7年)6月に本契約となった議案工事2件の計39件を除くと数字は一致します。平均落札率は94.5%で、平均の設定率は最低制限価格92.82%、調査基準価格94.40%でした。国土交通省の調査は工事の落札率が92.6%でしたが、やはりこれは工事の平均値であり、土木や設備などを含んでいると思われます。建築工事は高い落札傾向にあると考えていたので、1.9ポイントほど高い結果は納得できました。こちらも発注者別で見ると94.2%で設計ほど大きな変化はありませんし、高い結果は変わりませんでした。


応札業者数は平均5.6社。1社応札も数多く発生しているので、最近の入札不調の増加を考えると有り得る数字だと思いました。大型工事を中心に適用される調査基準価格では、制度上の上限となる95%が24件中7件もあり、当然のように落札率は引き上がり、平均落札率は95.68%でした。
一方、件数の構成比で80.5%を占める競争入札は、平均最低制限価格率が92.82%なので、調査基準価格よりも低く設定されています。90.13%の工事をはじめ、90%台の工事も複数ありました。調査基準価格は最低が91.55%なので約1.5ポイントの差があります。
建築設計と建築工事を比較すると平均落札率は、建築設計89.4%に対し、建築工事94.5%と5ポイント程度の差ではあります。しかし最低制限確率(工事は調査基準価格の設定率も含む)の設定状況は、建築設計77.49%に対し、建築工事94.40%と16.91%もの格差が生じています。発注者のシステム上、私が想像していた15ポイント以上の違いが生じています。やはり明確に区別されています。
ただし横浜市の場合、建築修繕の設計業務や建築工事は公益財団法人横浜市建築保全公社に委託しています。これを合わせないと本当の全体像は見えないのかもしれませんが、委託されているのは、小規模工事だけですので、大きな変化は生じないと考えました。
そして平均の応札業者数は建築設計が平均4.9者、建築工事は平均5.6社です。コンマの違いですが、応札業者数の減少が話題に上がる建築工事よりも悲惨な状況です。建築工事には第2回入札が1件しかありませんでしたが建築設計は2回以上が17件もあります。建築設計の応札業者数や、第2回、第3回入札の頻度を考えると、公共建築にたずさわる建築設計事務所も建築工事の施工者以上に危機的状況に見えます。しかし世間的、建築士的にも建築工事の施工者ほど危機感が認識されていないように思えます。
【続く】


コメント