だれが街並みを守っていくのか(3)

 前回の内容で、地域に存在する小さな建築設計事務所は、「士業」の中でも低い水準にあることが、ある程度は示せたと思います。この報酬が低いレベルになるという結果は何に起因するのか?
 1つは業務報酬体系にあると思います。元々、税理士や弁護士、公認会計士は「法定賃金」(会則で定めた統一報酬基準)と呼ばれていました。弁護士の場合、「事件の対象の経済的利益の額」が着手金、「委任事務処理により確保した経済的利益の額」が報酬金として算定される構造でした。ダンピングを防ぐ「最低額の定め」もありました。2000年代前半の規制改革(独占禁止法違反の可能性)により士業の報酬基準は一斉に撤廃されました。他の士業が独占禁止法を理由に報酬基準を捨てた一方、建築士だけは国の告示としての報酬基準を今も残ります。ある意味で価格が守られている立場です。

 ただ、弁護士などは廃止後も、大半の事務所が旧日弁連報酬等基準の内容をほぼそのまま自分の報酬規程として採用している気がします。実際、各法律事務所が公開している報酬規程を見ると、着手金・報酬金を経済的利益の額を基準に算定する構造も、条文の並びも、旧基準とほとんど同じです。廃止されたのは規程であって、相場ではなかったということです。

 そして交通事故を例に取ると、損害保険会社と日弁連リーガル・アクセス・センター(LAC)が協定保険会社と協議の上で「弁護士費用保険における弁護士費用の保険金支払基準」(LAC基準)を定めています。約款でLAC基準と同様の条項を置く保険会社はそれ以上支払わないため、事実上の統一価格として機能しています。弁護士費用特約が普及した現在、交通事故案件で「どこに行っても同じ金額」になるのは、旧基準の慣性ではなく、この協定の効果です。静岡県浜松市のように自治体でも弁護士報酬規定を定めているところはあります。境界確定訴訟の着手金・報酬金、借地非訟の経済的利益の算定方法など、旧基準とほぼ同じ条文構成を持っています。

 建築士に残された報酬基準。それは「工数比例」で算出されます。業務に係る費用や報酬が実際に投じた労働量(工数)に比例して計算される仕組みであり、「用途と面積で決まる人・時間数 × 時間あたり人件費」です。一方、廃止された弁護士の旧報酬等基準は、成果の経済的価値であり、取り戻した金額の一定割合になります。工数比例の問題点は、単純に計算すれば、腕がいいほど報酬が下がる、という現象が起きます。知識や創造性の対価は、独立した価格を持たず人件費に従属した価格になります。

 下限については個人の建築設計事務所の場合、最低賃金すら存在しません。最低賃金法は雇用契約が前提であり、設計業務委託は委任なので対象外です。ひとり事務所の所長が受け取る設計料には下限がないことになります。建設業法の労務費の基準(標準労務費)も対象外です。同法が定めているのは建設工事の請負契約であり、設計・工事監理は含まれません。結果として職人には、最低賃金と労務費の基準という二重の下限がありますが、独立した設計者には両方とも無く、あるのは努力義務だけです。

 建築士の報酬は、知識や創造性の対価ではなく時間の対価として設計されている。ここが問題の大きなウェイトを占めるように思えます。工数ベースを選ぶなら単価の保証が不可欠なのに、そこが空白のまま放置されていることです。国が工数を決め、市場に単価を委ね、下限規制を置かない。これでは工数が正確であるほど買い叩きの根拠を提供していることになると思うのです。この結果、建築士の報酬(給料)を低く抑えてしまうことを誘引しているように感じます。

【続く】

 

 

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